[ 緊急掲載 ]
石油、国際通貨、傀儡政権、そして戦争。イラク、イラン、サウジアラビア、北朝鮮を巡る戦争の歴史をふりかえると、いつも戦争には正当な理由などないのだと思わされます。

文:浅輪剛博

 石油パイプラインがつなぐ戦争の連鎖


 イラク戦争は石油のための戦争だ、と良く言われます。その一面もあると思います。

 たとえば、石油というのは世界的にアメリカドルを決済の手段として使っています。つまり、米ドルを持っていれば、石油が買える、という保証があるのです。その貨幣百パーセントを使って、ある重要な基軸となる製品が買える、というのが、国際通貨であるための最大の条件です。この製品はずっと長い間、金であった。そして、実際のところ今でもそうなのですが、もう一ついわゆる黒い金=石油が、基軸通貨の価値を保証するものとして重要になってきています。

 ところで、フセイン政権のイラクは、自国の石油を売るのに米ドルではなく、ユーロを使う、という方針をとりました。これは、世界の中心貨幣としてのドルの地位を危ぶませるものです。こんな事をブッシュ政権が許せるわけがない。これが、イラクへ侵攻した理由のひとつでしょう。ちなみに、イラクに続いて、イラン、サウジアラビアが、そして石油を持っていないが北朝鮮がユーロを国際通貨としようという動きを見せてきています。この並んだ国名を見れば、ブッシュ政権が何をしようとしているのかは一目瞭然ではないでしょうか。また、ユーロを奉ずるフランスやドイツの政府がなぜブッシュ政権に強硬に反対するのかも、予想がつくところです。

 要するに直接石油が関係あるか分かりませんが、それに関わる通貨政策において関係があるだろう、と。(ちなみに、狭義の石油のためには、イラクを脅威のように見せかけておいて、最大の産油国であるサウジアラビアに米軍を置いておくほうがいいでしょう。最初の湾岸戦争の目的がそれであったように。)今度の戦争は、前回の湾岸戦争からずっとくすぶっていた、親イスラエルの連中が、フセインを駆逐をしようとしたのが原因だと思います。彼はイスラエルにスカッド打ち込みましたから。

 しかし、石油にまつわる戦争の連鎖はそれだけではありません。今の石油世界地図において重要なのは中東諸国と共に、中央アジアです。カザフスタンを中心とする地域には、中東ほど良質ではないとはいえ、大量の石油、そして天然ガスが埋まっているのです。この資源を誰が、どう利用するか、というのが、世界情勢を決めるもう一つの要因でしょう。
 これらの油田は、ほとんど未開発である。というのは、中東の湾岸諸国と違い、海から離れた奥深い大陸内部にあるからです。つまり、石油タンカーまで石油を運ぶのが困難である。よって、海の近くまで長大な石油パイプラインを引こうという画策が何度もされてきました。
 ひとつは、そこから南に、インド洋のほうへパイブラインを伸ばそう、というものです。これは主に、米国、そしてオランダの石油産業が求めている方法でした。この案の問題は、そのパイブラインは政治的に不安定なアフガニスタンを通らねばならないことでした。1990年代、タリバンがアフガンを支配していたわけですが、彼等を説得してパイプライン敷設を行おうとクリントン政権はかなり力を入れていたのです。そのために、タリバン政府の官僚の給料をクリントン政権が肩代わりしていたとまでいわれています。
 しかし、90年代の終わりになっても狂信的な宗教集団であるタリバンは実利にこだわらなかった。その結果、政権転覆を図って、クリントン政権はそれまで無視していたアメリカ国内のアフガン亡命者のタリバン批判の声を大幅に取り上げることにしたのです。彼等は亡命できるだけの裕福なアフガン人であって、タリバン政権において最も剥奪された人たちであったといえるでしょう。
 そして、911のテロの後、大義名分を持って米軍はアフガニスタンに侵攻しました。そして、カルザイという米国の傀儡政権を作ることに成功したのですが、最初から予定されたとおり、国内の治安を維持することは困難でありつづけていて、結局石油パイプラインをひく、という当初の計画はなかなか進んでいません。

 さて、中央アジアからのパイプラインをひく方向はもう一つ、イラン、あるいはロシアからトルコなどを通って、ヨーロッパにつなげる方法です。トルコなどが今回の戦争の時に何度も焦点となるのはこの理由もあります。トルコはイラクと同じ様に、あるいはそれ以上にクルド人を虐殺していますが、それをずっと支援し続けているのは米国政府です。
 また、イランのほうは、アメリカは「敵国」と定義付けています。
 ちなみにイランが敵国となった経緯ですが、イランはもともとアメリカの属国でした。その傀儡政権は、米国の石油利権のために国民を抑圧していた。それに対する国民の不満が、1979年のホメイニ革命を呼び起こしたのです。イスラム主義となったイランは、反米政権となった。それに対し、イラクは1958年以降、英米の石油利権から抜け出したり、また、CIAの画策で反クーデターが起きたりしていました。そして、1968年のフセインによるクーデター以降、ずっと反米政権でした。しかし、イランにおけるホメイニ革命に対抗するために、米国司令部は暴力的でイラク人に嫌われていた独裁者フセイン将軍に支援をはじめ、80年から88年の長期のイラン・イラク戦争を続けさせたのです。
 つまり、フセインは米国政府の傀儡政権であったので、フセイン政権が80年代に起こした数々の残虐な行為はすべて米国政権の後ろ盾があってしたことです。たとえば、イランに戦争を仕掛けてイラン・イラク戦争を始め、クルド人地区に化学兵器を使用させたり。
 それは、イラク軍にクウェートを侵攻させるまで続きます。そう当時の父ブッシュ政権はクウェート王国(強権的な王が支配していて、少なくとも大統領制をひいているイラクより非民主的な国)に、イラク国内の油田に斜めに掘っていって、かすめとって採掘できるような技術を与えたりして、イラクを刺激し、挑発しました。そして、フセインがクウェート侵攻を準備していることを聞き、それにお墨付きを与えました。
 ところが、実際にフセインがクウェートを占領したら、逆にフセインを攻め始めたのです。フセインはもともとは反欧米植民地主義であって、イラン政権を転覆する事もできず役立たずとなり、また、サウジアラビアに米軍を駐留させる大義名分を欲しかったからです。
 しかし、当時の父ブッシュ政権は、あえてフセイン政権を倒さなかった。というのは、フセインがいる限り、サウジアラビア、クウェートを始めとする中東各国に米軍をそのまま駐留させておけるからです。そうやって、世界最大の油田地域に強い目を当て続けることができた。
 しかし、それが逆に、フセイン政権がヨーロッパやロシアと接近して、米国の石油政策を不安定化させる要因となりました。91年の湾岸戦争当時、国防長官であった現副大統領のチェニーを始めとして国防総省を牛耳っていた連中、ラムズフェルドやウォルフォビッツは、よってフセインを残したことを自らの失敗として深く傷ついていたのでしょう。この単純な連中は、今こそその失敗を取り戻したいという強い心理的欲求のもと、無茶苦茶な論理で今回の戦争を始めたのです。
 さて、イランは、というとイラクとの戦争の関係で共産主義のソ連と近づき、非民主的な国となっていました。それに対して、最近遂に民主化の流れが強まり、改革派のハタミ大統領が選ばれ、そして、アメリカに「やっと民主主義になれたよ」とエールを送り続けています。ところが、「イラクを民主化するために」戦争をする米国政府はどうしたことか、それを無視し続け、逆にハタミ政権を失脚させるために、イランに中傷を続け(悪の枢軸の一国に数え上げたり、やたらと原爆を製造していると文句を言い続けたり)よって、民主政権に反対するイラン国内の保守派への支持が高まるように仕向けています。
 つまり、ブッシュあたりが「中東を民主化する」なんていうのはまるっきりうそっぱちなのです。もしその言葉に誠意があるなら、イラクよりまず、イランの現政権を支援するはずです。ところが、自国で石油田を維持する政権なら民主的であろうとなかろうと、米国政権には敵なのです。米国政権が欲しいのは、自ら民主主義を打ち立てた政権ではありません。米国政府の言うことを聞く政権であって、それが民主的であろうと独裁的であろうと関係ないのです。これにだまされないで下さい。
 命令に従う国を増やすのが国家としての目的。自国より経済的に強い国を無くすのが強国の目的、なのです。たとえば、ブッシュ政権に現在いるラムズフェルド、ウォルフォビッツは、ドイツや日本なんかは経済的にアメリカに競っているのだから突き落とすべきだ、と公言しています。そのためにこそ、北朝鮮状況を不安定にさせて、日本が安心して立ち直れないようにさせておく必要があるのです。見事な同盟国です。こんな政権に付き合うのは日本の国益なのだそうです。

 さて、それに関して、中央アジアからの石油パイプラインのもう一つのルートとして重要なのが、ロシアから中国を通って、朝鮮半島を超えて、日本へ、という膨大な計画なのです。小泉政権が盛んにロシアと親密になろうとしているのはこの理由のせいでしょう。もう一つ彼がとつぜんのように北朝鮮を訪れ、友好を深めようとしたのもそれが理由だと思います。石油パイプを通す計画を完成させるのが第一だから、拉致された人たちが死んでいようとあまり気にもかけなかったのでは無いでしょうか。この計画はうまく行きかけたのですが、その後すぐブッシュ政権の使者がピョンヤンに飛び、いまさらのように北朝鮮がミサイル計画を持っているとか、はやしたてました。つまり、米国抜きで日本が石油パイプライン計画を進めることなど許さん、という意思表示でした。
 米国政府や日本政府が北朝鮮にこだわるのはもう一つの理由があると思います。それは北朝鮮にある鉱山物質ではないでしょうか。IT技術の発展と共に新たな鉱山物質が必要とされています。たとえば、アフリカのコンゴやルワンダには、携帯電話に必要なコルタンという物質が取れます。この原料が安く手に入り続けるためには、これらの地域の通貨が安く維持されている必要があるでしょう。そこで戦争や虐殺が起きて何万人も殺されても国際社会があまり対応してきてないのには、そういう背景があるのではないでしょうか。そしてあまり開発されていない北朝鮮の鉱山資源に対する思惑が、中国から、韓国、日本、米国にあり、それぞれの方式でその利権を得ようとしているわけです。
 だから、小泉政権が北朝鮮の脅威があるから米国同盟は重要だ、というのは、どこかおかしいのです。実際のところは大いに反対でしょう。米国からの圧力があるから北朝鮮はなす手もなく脅威となるように演じるのでしょう。金政権は、そうしないと権力を守れないからです。全くどっちもどっちです。しかし、食料にもエネルギーにも苦慮している国が本当の脅威なのでしょうか。拉致やミサイル問題を言いますが、平気であちこちの国にミサイルを撃ち込んできている国はどこなのでしょうか。北朝鮮はどこの国にもミサイルを撃ち込んだことはありません。クリントン政権は、スーダンとアフガニスタンに撃ち込みました。911がそれへの報復であったのは良く知られていることです。
 拉致はあちこちの国がやってきましたが、決して大きく報道されることはありませんでした。たとえば、インドネシアは東ティモール人を拉致し、虐殺していましたが、それを国連において必死で隠そうとし支持していた国は日本です。太平洋戦争後、30年近くも米国が沖縄を占領していたのは一種の拉致ですが、それに日本人は怒ったのでしょうか。

 こう考えると、世界はこの様に考えられます。中央アジアでの石油利権をめぐって、ロシアから、パイプが届く先のフランス、ドイツ、そして逆方向の中国、北朝鮮、それから、ユーロで固まって米国の支配を逃れたいイラク、イラン、サウジ。その逆にあくまで世界の中心を維持し続けようとするアメリカとその傀儡政権たち。もちろん、日本はそのどちらにも利権を持っていて、まさに苦渋の選択だったのでしょう。
 どちらのグループにつくにせよ、まったくみにくい世界になってしまいました。あるのは対立だけです。これを止められるのは、ゆっくりゆっくりと進んでいく、市民によるオルタナティブな世界だけでしょう。



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