[ 倫理的経済的 ]
 

ある日、TCXに匿名のメールが来ました。
「僕も戦争には反対です。でも、あなた方がやっている、戦争を食い止めるためにボイコットを呼び掛ける、という活動は、まったく理解できません。ボイコットでマクドナルドやウインドウズがつぶれたら、困るのはそこで働いている日本人ではないですか?」  ―― さてさて、TCXの回答やいかに?

 反戦ボイコット――苦情と言い訳

 

トランスコミック謹製「ボイコットフラッグ」。2003年春のイラク攻撃に反対して作られた。選ばれたのはブッシュ政権へ多額の献金をしている企業。

<<大いなる苦情>>

僕も戦争には反対です。
でも、あなた方がやっている、戦争を食い止めるためにボイコットを呼び掛ける、という活動は、まったく理解できません。

まず、そんなことをして困るのは、誰でしょうか。
アメリカ経済は損害をこうむるかもしれませんが、日本経済も同様ではないですか。
アメリカ系列のマクドナルドやウインドウズ、それらはどうなるのですか??
実際に系列会社や店鋪があるのは、日本ではないですか。
「アメリカ商品」のボイコットは、日本経済にも大きな影響を与えるはずです。
そして、その結果、店がつぶれたら、困るのは働いている日本人ではないですか?
不況が長引いている上、失業者は増え、今の経済難からさらに経済が悪くなってはどうするのでしょうか。
きちんと今の経済、今の日本経済のことを考えてください。

戦争には僕も反対ですが、そのためにボイコットすることは、一生懸命働いている人たちにも、大きな損害を与えます。
実際、僕の妻もマクドナルドで働いていますが、どうして罪もない従業員やその家族が、損害を蒙らなければならないのですか。

こういうふうに考えている人も多いと思ったので、どうしてもあなたがたの活動には意見を言いたくなりました。


<<苦しい言い訳>>

御意見、有り難うございます。しかし、幾つかの勘違いをなさっている点があるようなので、指摘させていただいたうえ、回答させていただきます。

  • 反戦ボイコットは、アメリカ経済(あるいは日本経済)に損害を蒙らせることを目的としていない(そんなこと出来ない)、という点が重要です。

  • 反戦ボイコットは、特定企業の製品をターゲットにするものではなく、戦争に協力的な活動を行なっている一切の企業の製品をターゲットにするものだ、という点も重要です。

    献金企業リストは、以下を御参考下さい。
    共和党への献金企業(ピースチョイス)

上の二点から、反戦ボイコットが、企業の売り上げにどれほどの悪影響を及ぼしうるものか御想像いただければ、良いと思います。特定企業や特定国家の製品をボイコットする、ということは、かつてもあったし、それなりに大きな経済的打撃を与えてきました。しかし、アメリカをターゲットに特定するのでもなく、マクドナルドなどの一部の企業を攻撃目標にするのでもない、そんな曖昧模糊としたボイコットが、どれほどの経済的打撃を与えることができるか、まともな頭を持ったものなら、誰でも想像できます。そして何よりも、そうした一切の企業製品を買わないことなど、日本の消費者にとっては、たいそう困難なのです。あなたは、ターゲットにされた企業の労働者を心配していますが、それはある意味で荒唐無稽なことです。というのも、そんな一切の企業の製品がボイコットのターゲットだったら、まず困るのは消費者の方だからです。

他方、「不買運動」という言葉が、多くの方々にスキャンダラスな誇大妄想を想起させることに、注目していただきたい。そうした印象は、過去の歴史において、特定国家の、あるいは特定企業の製品に対するボイコットが、大きな経済的打撃と社会的変動をもたらしたことから、人々が想起するものでしょう。とくにそれが社会的変動をもたらしたことを知る人は、それを最も恐れ嫌がるでしょう。実際、「不買運動」と言っただけで、現実にはたいして売り上げが下がるわけでもないのに、あなたのような方が出現するのです。

したがって、反戦ボイコットは、そもそも経済的打撃を与えることを目的としていないばかりか、そんなことは望みようもないようなものです。しかし、それは非力である、ということと同義ではありません。むしろ、企業にとって、消費者の購買行動は統治しようのないブラックボックスであり、しかもそれなしに企業の健全な存続はありえないようなものです。経営者は誰よりもそれを知っているからこそ、ボイコットを恐れるのです。経済の隠れた「主体」は消費者だ、ということ、これが「不買運動」という言葉が暴きたてるスキャンダラスな事実です。

だから、反戦ボイコットにおいて、望みうるのは、せいぜい、戦争に協力的な活動を行なう企業に対して、合法的でありながら、最も強いかたちで、抗議の意志を表明することであり、これ以外のことを目的としていません。もちろん、この目的を遂行するためには、企業の売り上げを落とすような行動(現実の不買行動)が不可欠でしょう。しかし、反戦ボイコットが、こうした点で極端に効果の薄いものであることは、否めないのです。要するに、反戦ボイコットは、消費者の隠蔽された「主体性」をもって行なう、合法的でありながら、もっとも強いかたちの、抗議表明以上ではありえません。だから、企業はターゲットにされたくないのであれば、好戦的な政権に対する献金を取り止めるだけで良い。あるいは、反戦の意志を表明し、政権に対する抗議として献金を減らせば良い。何であれ、比較的容易な選択肢を選べば良い。

とはいえ、反戦ボイコットが直接売り上げの減少をもたらすことは少ないにしても、資本市場への影響などについて、大きな影響が及ばないと断定することは出来ないでしょう。その結果、あなたの恐れるように、甚大な経済的打撃を蒙る企業が出てこないとは限らない。しかし、夏以降悪化の一途を辿るイラク情勢が、たとえば為替相場にどのような影響を与え、それが日本の株式相場にどのような影響を与えてきたか、あなたのように「今の経済のこと」を真摯に憂うる方であれば、よく御存じなのではないでしょうか。不買運動などとは一切関わりがない中で、日本の資本市場はどのような影響を蒙ってきたでしょうか。

そもそもアメリカの経済難は、ベトナム戦争以降続いてきたものです。その後、不換紙幣にしたりドルを切り下げたり、色々手練手管を使ってきのですが、究極的には、経済復興した旧西ドイツと日本が、米国債を買い支えて何とか持ってきたようなものです。その後、87年のブラックマンデーで、完全に打ちのめされた。それでも、旧西ドイツは引き上げたが、日本は買いささえ続けた。これが、バブルの原因であり、後のバブル破裂につながる。

シリンコンバレーが実体経済を引っ張ったということはあったにせよ、クリントン時代でさえ、中小都市の多くはゴーストストリートみたいなものだし、公共機関は思うように機能していないものも多い。

今のままなら、そのうち日本の買い支えもダメになるでしょう。中国を初めとしたアジア諸国も、米国債を買いささえているので、危険です。さらに悪いことは、これらの国々は米国債の売却に走ろうとしても、暴落する恐れがあるので、それができないでいる、という点です。せいぜいヨーロッパだけが残るかも知れない。今、イラクに派兵するのは、例えて言えばベトナム戦争に日本も参戦する、というようなものです。
同じ泥沼です。しかも、ベトナム戦争のときとちがって、今のアメリカ経済には戦費を自国で調達するだけの余力がない。今、ニューヨーク市場でダウ工業株が高値をつけていますが、これも、イラクでの戦費を調達するために、秋以降、円高ドル安傾向に為替相場を誘導し、そのために日本の株式市場から資本が逃避しただけのことです。
その証拠に、小泉内閣がイラク派兵を決めた頃になって、為替相場は安定し、日本の株式市場も一息ついています。イラクでの戦費を、日本も負担することが明確になったためでしょう。

こんなに容易に、アメリカ政府が戦費の調達ができるのは、日本経済の隠れた「主体」がアメリカの消費市場であるためです。日本経済は、アメリカの消費市場に輸出することでしか、存続できない。だから、為替相場に敏感なのです。そして、対米貿易黒字を使って米国債を買い支え、その市場を維持している。日本政府がアメリカから自立できないのも、多くはここに原因があります。正気とも思えないような戦争を引きおこそうとするネオコンの活動に対して、日本の反戦勢力が無力だった理由のうち、大きなものがこの経済構造にあることは、明らかです。この経済構造は、戦争を食い止めることを難しくしているばかりではなく、日本経済の将来に大きな負担をかけるものになっています。米国債の所有を控えること、これは、戦争に加担しないだけでなく、「今の経済のこと」を真剣に考えるのであれば、とても重要な課題であるとは言えないでしょうか。

いずれにせよ、無意味な戦争を忌み嫌うのは、市民ばかりではなく、資本(投資家)にとっても基本的に同じだ、と考えています。平和が維持されなければ健全な経済活動もまたありえないし、何よりも戦争には膨大なコストがかかるのです。このコストは、何らかのかたちで、経済界が(企業家と市民とが)負担して行くものです。戦争を喜ぶのは恐らく、軍需産業だけでしょうね。

とにかく、イラクやパレスチナなどの極端に悪化した紛争地域において、安全で衛生的な生活環境が取り戻されること、これ以上の無駄な自然環境の破壊が食い止められること、これを願うばかりですが。



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